画像の川の流れる地形、何かに似ていないだろうか?
そう、馬の蹄鉄の形をしているのだ。
ここはアメリカのアリゾナ州ページという町付近にある峡谷で、コロラド川が蹄鉄の形に流れていることからホースシューベンド(Horseshoe Bend)と呼ばれている。
コロラド川が長い年月をかけて侵食し、自然の力のみで作り出されている美しいこの場所は、大地のエネルギーを存分に感じることができる。
今回、『蹄鉄(ていてつ)』について書いていくのだが、文字通りの場所だったので紹介してしまった。とても綺麗なところなので死ぬまでに一度は訪れたい。
競馬場で競走馬たちの走る音は、地面から足の裏を伝わって胸に響いてくる。
ホースシューベンドはそんな目に見えないエネルギーの流れを感じることができる場所に違いないと思っている。この気持ちはなんだろう。
Contents
蹄鉄(ていてつ)とは
主に馬の蹄を保護するために装着する、金属で作製されたU字型の保護具のことである。
蹄鉄の役目
蹄の磨耗や破損を防止するために用いられる。人間に飼育されている馬は、野生の馬と比べて蹄が弱く消耗してしまう。
そのため、家畜に使用し蹄を守ろうとしたことがきっかけで、蹄鉄が生み出された。
野生の馬が蹄鉄を装着せずに生きていけるのは、食べている餌や生活環境に違いがあるからだ。
野生の馬が食べる餌は高い栄養価を持っており、また生理欲求により多様な餌から不足している栄養を補給するように摂食している。
栄養を十分に補給している馬の蹄は、硬く頑丈な角質組織として発達していくのである。
生活環境は多種多様な地形を歩き生活しているため、日々磨耗しているのだが、人の皮が剥けて硬くなっていくように、馬の蹄も刺激作用によってより頑丈になっていく。
人に飼育されている馬は、人間の与えやすい餌を用いられることが多く、栄養が偏ってしまい不十分になってしまいがちである。
それに加え、馬小屋での生活により日常的に外を自由に歩き回ることができないため、蹄は脆く、傷にも弱くなっていく。
競馬界での蹄鉄
競走馬も人の管理によって生活をしているため、野生の馬とは違い蹄が弱い。
競馬界でも蹄の磨耗を防ぐ保護としての役目は大きい。
それ以外では正しい歩行をサポートすることと、蹄の消耗が原因のケガを防ぎより良い運動を可能にすることを目的としている。
蹄鉄の歴史
かつては出走の度に蹄鉄を競走用のもの(勝負鉄)に打ち替えられて、レースが終わると調教用の蹄鉄に打ち替えるといったことが行われていた。
そのため、蹄に釘穴が多くできることとなり、蹄の弱い馬だと蹄壁欠損を起こしてしまっていた。
馬の蹄を傷める打ち替えを行っていた理由は蹄鉄のコストにある。
レース中には軽くてスピードの出るアルミニウム製を使用するのだが、アルミニウム製は値段が高いためにこればかりを使っているとコストがかさんでしまう。
そこで調教時にはアルミニウム製と比べると安価である鉄製の蹄鉄を使用していたのだ。
蹄鉄はレースに影響するのか
競走用の蹄鉄と調教用の蹄鉄を打ち替えていた時代では、蹄鉄による影響が大きかったという。
パドックなどで蹄鉄の良し悪しを見抜くことができるようだ。
その時装着する鉄の種類でタイムが3秒も変わることがあるくらい差があるようで、前走が後方にポツンと寂しく走っていた馬でも、次走でぶっちぎりの勝利を納めることも多かった。
今で例えると、初ブリンカーで馬が変わったように走ることがあちらこちらで起きていたということだ。
現在の蹄鉄
レース毎に打ち替えを行っていた時代は去り、今では蹄を少しでも守るために競走及び調教の両方で使用できる兼用蹄鉄が開発されている。
アルミニウム合金材から作られるこの兼用蹄鉄は、ほとんどの競走馬が使用している。
また馬の蹄は1ヶ月で約1cm成長し、これにより形も少しずつ変化していく。
あまり硬すぎる素材を用いる蹄鉄だと、蹄の機能を低下させ、「蹄機(ていき)」がほとんど作用しなくなって馬の体調にも悪影響を及ぼしかねない。
現在使用されている蹄鉄は、成長を妨げたり蹄の機能を低下させないような素材が使われている。
落鉄(らくてつ)はレースに影響するのか
落鉄とは蹄鉄が外れてしまうことで、2016年のダービーでサトノダイヤモンドが落鉄をしていたという話題が耳に新しい。
池江調教師も「落鉄したのが痛かった」とコメントしているように、レースに影響を及ぼしているように感じる。
しかしこの記事を書いている現時点では、落鉄がレースに影響を及ぼす科学的証明はされておらず、あくまで推測の話となる。
レース中に落鉄したとすれば、蹄の動きや蹴り出す力に違和感を覚えるのは間違いない。
仮に陸上選手が全力疾走している時に靴が脱げたとすれば、遅くなることはあっても早くなることは少ないだろう。
最初から蹄鉄を外してレースに臨んだとすれば、結果は変わるかもしれないが、レース途中の落鉄は悪影響しかないと私は考えている。
わずか8センチの差でダービーでの勝利を逃したサトノダイヤモンドも、落鉄がなければダービー馬だったかもしれない。
ちなみに、レース前の落鉄であれば再装着してから出走するが、馬が興奮して再装着が困難な時は蹄鉄を装着せずに出走することもある。
まとめ
今回、蹄鉄は馬の蹄保護になくてはならない馬具だということがわかった。
昔と比べると蹄鉄の差によってレースの勝敗に影響が出ることは少なくなったようで、蹄を作ったり打ったりする装蹄師の腕の見せどころが少なくなったのは寂しくもある。
また蹄鉄は幸運を呼ぶものと信じられている地域もあり、ネットで調べるといくらでも情報が出てくる。
しかし競馬での蹄鉄の情報はあまり多くない。私自身も気になって調べたが情報が少なかったので、今回記事を書くに至ったわけだ。
この記事でもまだまだ情報が少ないので、今後追記する予定。
蹄機とは馬の歩行時に生じる蹄の現象のことである。
馬の蹄は大きな馬体を支えているが、思っている以上に弾力があり、蹄踵(ていしょう)と呼ばれる蹄の後ろの部分は人の手で押しても弾力を感じられるほど柔らかい。
このため、歩行時に肢が着地すると体重がかかる部分が外側に広がり、肢が空中に上がるとまた元の形に戻るという動きをしている。
蹄機の動きは蹄内の血液を心臓に押し上げるポンプのような役割を果たしているのだ。
蹄機がうまく作用しないと血液循環が悪くなり、蹄葉炎を発症してしまうこともあるので、非常に重要な役目を果たしている。