競馬を知っている人でも知らない人でも、レース中に馬の尻などに鞭を打っている姿を見たことがあると思います。レース終盤に騎手が馬に鞭を打つことの本当の意味をみなさまはご存知でしょうか??
鞭の種類について気になって調べていたところ、意外と知られていない鞭の重要性を知ることになったので、記事にしようと思いました。
今回は競馬で鞭を使う必要性、効果など紹介していきます。
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鞭とは
”騎手が使用する鞭のこと。騎手騎乗では、長さ77センチ未満で、衝撃吸収素材を用いたパッドを着用したものでなければ使用できない。”
引用元:JRA-競馬用語辞典-
過去使用されていた鞭は鋼でできたピアノ線もしくはクジラのひげや皮から作られていたのですが、捕鯨禁止の問題から現在はグラスファイバーが素材に使用されています。
競馬で使用する鞭には種類がたくさんあり、短いもの長いものから柔らかいもの硬いものと、様々です。羽がついているものは振った時に、「ヒュン」と音がするように取り付けられています。
鞭の値段ですが、練習用の鞭ですら1万円を下ることはありません。高価なものであれば数万円するものもあるそうで、長短柔硬用意するだけで数十万円を超えてしまいます。
握り心地の差であったり、癖のある馬用に鞭を用意することもあるので、騎手にとって鞭は切り離すことのできない商売道具なのです。
また鞭を打つことを競馬では鞭を入れると表現します。
鞭の打ち方
基本的に鞭を打つときは馬のお尻に当たるようにします。しかし馬によって鞭が与える効果は十馬十色なので、鞭の打ち方にも種類があります。
見せ鞭-みせむち
実際に鞭を入れると逆に走る気を失ってしまう馬に対して、馬の視界に鞭を入るようにするだけで走る気を促します。
この方法は鞭が有効な馬に対しても使うことがあります。急に鞭を入れることで大きく馬体がよれたりすることがあるので、馬にもこれから鞭を入れるという合図として使われます。
肩鞭-かたむち
こちらも見せ鞭と同じような使われ方をします。尻に鞭を入れると嫌がる馬には肩に軽く鞭を入れます。
馬の視界に鞭が入るので、肩を軽く叩くだけでも合図として有効になるのです。
手鞭-てむち
鞭を落としてしまった時に行う方法で、その名の通り手を使って馬体を叩きます。
叩く場所を変える時の持ち替えで落としてしまうことがあり、そのレース中に使用されることがあります。しかし鞭を持ったままでもちょっとした合図として使用している騎手もいるそうです。
この手鞭の構えはかっこいいですよね。C・ルメール騎手は鞭を落としても手鞭で見事1着をもぎ取りました。
出ムチ(出鞭)
スタート直後に使う鞭のことで、スタートが遅い馬や最初から前に出したい時に使用されます。「出ムチをくれる」と表現され、実況から聞こえてくる時もちらほら。
風車ムチ
外国人ジョッキーや地方競馬ではよく使われますが、文字通り風車のように鞭をグルグルと回しながら打ちます。稀に水車ムチとも呼ばれます。
日本では安藤勝己騎手が風車ムチの使い手として有名です。
現在ではルール改定に伴い、ほとんど使用されることはなくなってきています。
風車ムチは乱暴な打ち方に見えますが、回すときに見せ鞭の効果も得つつ、馬の動きにに合わせてテンポよく鞭を打つのはとても高度な技術なのです。
モンキー乗りでは鐙が浅くお尻を浮かす形になるので、主には天神乗りで使用されます。障害競走でも多いみたいですね。
鞭の意味、その効果とは
馬に鞭を力一杯打つことの痛みによって、馬の闘志を引き出させ、馬の力を引き出していると思っている人も多いかと思いますが、実は痛みによって速く走ることができるわけではないのです。
鞭を使用する理由は大きく分けてふたつあります。
1.スパートの合図を送るため
思い切り叩くのではなく、ここぞというタイミングで飛び出すために合図として鞭を入れます。鞭を嫌う馬には見せ鞭や肩鞭を使って合図を出します。
調教で鞭が入ると走らなければならないと幼い頃から教え込まれているので、それをゴール前に思い出させるために鞭は使用されるのです。
デビュー間もない新馬には柔らかい鞭、反応が鈍くなっている古馬には硬い鞭と使い分けることが多く、馬によって合った鞭を使用し打ち方を変えています。
これは馬の力を最大限発揮できるようにと、合わない鞭や使用法によってストレスを溜めさせないよう配慮されています。
2.内外によれる馬をコントロールするため
レース中、馬は全力で走っている時やバテている時などにまっすぐ走ることができず、内へ外へとよれてしまうことがあります。
そのまま走らせているとよれた時に馬と衝突してしまったり、進行妨害となり降着や失格になってしまうこともあります。
馬がよれてしまった時は基本的によれた側から鞭を入れます。なので騎手は左右どちらの手からでも自由自在に鞭を操ることができないといけません。
他にも2頭の競り合いになった時に、相手馬に合わせられなければ不利になってしまうこともあります。危険を回避するためにも勝ちに近づくためにも、鞭の適切な使用は必要不可欠な技術なのです。
馬にもS・Mがある?
後藤浩輝元騎手によると馬にもどうやらSとMがあるらしいです。叩かれるのが好きな馬とそうでない馬の2種類いるようです。
Mっ気のある馬は強く叩かれると速く走るというわけではないらしく、気持ちが良くなってしまい逆に走らなくなってしまうそうです。笑
Sっ気のある馬は、叩かれるのが嫌いなため速く走ることで鞭を入れられずに済むと思っているようです。そのためレース中に鞭を入れることで、嫌なことから避けるように思いっきり加速するとのことです。
鞭を入れたくても入れられない馬や、入れすぎると走らなくなる馬など本当に様々な馬がいるんですね。
鞭について回る問題
馬に配慮して鞭を入れているとはいえ、レース後に流血している馬がいることもある競馬は、古くから鞭の使用に関して賛成派と反対派が分かれて意見し合っていました。
動物愛護団体から動物虐待と非難されることもあり、鞭の使用制限について何度も見直しされてきました。
動物愛護の意識が高いイギリスでは鞭の使用法や回数などに厳しい制約が設けられており、1レースで7回を超えてしまうと騎乗停止になってしまいます。
イギリスだけでなくフランスであれば回数制限が8回であったり、その他欧米諸国でも鞭の使用を制限する動きになってきています。
日本における鞭の使用制限
2011年に全国の地方競馬において、安全な競馬や馬のことを考えて、鞭の使用に関するガイドラインが導入されました。
国際協約のガイドラインに沿って鞭の使用が制限されることになり、具体的にはわき腹への鞭の使用禁止、馬がけがをするほどの鞭の使用禁止などがあります。
現在日本では鞭の回数制限を1レースで10回までとされています。みなさまにも1度読んでいただきたいのですが、武豊騎手のオフィシャルサイトにて鞭の使用制限について書かれています。武豊Official Site
2013年末に日本にも鞭の使用を制限していくといった通達がきたようで、2014年にはルールブックに明文化されていないのにも関わらず、制裁を受ける騎手が後を絶たなかったとのことです。
では制限である10回を超えてしまうとどうなるのか。
1回目が戒告、2回目が過怠金1万円、3回目が過怠金3万円、4回目以降は過怠金5万円が繰り返し科せられてしまうのです。
4回に達してしまったら年内はずっと過怠金5万円が科せられてしまう厳しいルール。
騎乗していないファン目線で見ても厳しすぎると思います。
鞭の制限で生じるさらなる問題
鞭の使用制限は馬を尊重し守るためにあるので、決して悪いことではありません。
しかし欧米諸国の流れに乗って使用制限が設けられていますが、日本には騎乗した馬の能力を最大限発揮しなければならないという別のルールが存在しています。
このルールは馬券を買っているユーザーを守るためにあり、ゴール前で騎手が手を緩めることによって着順の変動を防ぐことを目的としています。
……ただ追い上げていった時に鞭の使用上限である10回に達してしまったら、騎手はどうすれば良いのでしょうか。
もう何度か鞭を入れたら3着内に入れるかもしれない。でも過怠金がかかってしまう…。
これでは競馬の面白味が失われてしまう危険性があります。
欧米諸国でも上位争いをしている場合は緩く、下位の場合は厳しく判断するということが行われているそうなので、日本でも見ている側も馬に乗っている騎手も納得する判断基準を設ける必要があるのです。
鞭の使用による制裁ランキング
こちらでは2014〜2016年までの3年間で最後の直線で制裁を受けた回数の多い順に紹介していこうと思います。
1位 北村宏司 20回
2位 岩崎翼 18回
3位 松岡正海 17回
4位 幸英明 16回
5位 川須栄彦 13回
5位 松山弘平 13回
5位 川島信二 13回
8位 丸山元気 12回
8位 蛯名正義 12回
10位 三浦皇成 10回
10位 佐久間寛志 10回
12位 藤岡康太 9回
12位 和田竜二 9回
12位 柴田大知 9回
12位 江田照男 9回
16位 伴啓太 8回
16位 津村明秀 8回
16位 五十嵐雄祐 8回
16位 武士沢友治 8回
16位 内田博幸 8回
21位 M・デムーロ 7回
21位 加藤祥太 7回
21位 浜中俊 7回
21位 勝浦正樹 7回
25位 鮫島克駿 6回
以上、25位までのランキングでした。イメージ通りの騎手もいれば、意外な騎手もいますよね。
制裁が多いからイメージが良くないと捉えてしまうかもしれませんが、裏を返せば最後まで諦めずに上位を狙いに行っていると考えることもできます。
穴党の人にとっては有益な情報?なのかもしれません。
日本人騎手、遠征で制裁
2018年8月25日、イギリスのチェルムスフォード競馬場で開催された第3Rにて、PICKETT’S CHARGE(ピケッツチャージ)に騎乗した川田将雅騎手は、「決勝線手前で馬に反応の時間を与えずに鞭を使用したこと」によりブリティッシュ・ホースレーシング・オーソリティー(BHA)裁決委員から2018年8月29日(水曜)および9月10日(月曜)から9月12日(水曜)まで騎乗停止処分を受けることとなりました。
これにより、日本中央競馬会施行規程第147条第18号に基づき、裁定委員会の議定により、帰国後の2018年9月10日(月曜)から9月12日(水曜)まで同騎手の騎乗を停止になったそうです。
その時のレース動画がありましたのでぜひご覧ください。
まとめ
2017年1月にルール変更があり、動物愛護の観点から騎手が使用する鞭はパッド付きのものに限定することになりました。
最初の方に説明した衝撃吸収素材を用いたパッド付きというルールは最近できたものだったんですね。叩いた馬の痛みを和らげる効果があるとのことなので、こちらのルール変更は嬉しいことです。
鞭について調べてみると具体的にどんな種類の鞭があるのかという情報が少ないので、新しい情報を入手でき次第追記していくつもりです。※2018年10月2日追記しました。あいにく鞭の種類の情報はありません。
鞭の正しい使用法、馬への配慮ということがわかっていないと、レースを見ても騎手の怠惰だと思ってしまう人がいるかもしれませんが、この記事を読んで鞭を打たないことにも理由があると理解してレースを楽しんでほしいと思います。
応援している馬や好きな馬が追い込みすぎて故障してしまうのは悲しいですから。競馬関係者も競馬を見て楽しむ側も馬への配慮と愛を大切にしていきたいですね。
とても参考になる記事です。僕のブログで記事を紹介させてくださいませ!
うまたつさん
コメントありがとうございます。素直に嬉しいです!よろしくお願いします(^ ^)
興味深い記事です。とても参考になりました。競馬への思いが伝わって来ます。着目点が素晴らしいと思いました。これからもいろいろ教えてください。お願いいたします。